抜き足差し足

【漢字】抜き足差し足
【読み】ぬきあしさしあし
【意味】人に気づかれぬように歩く様子。
【例文1】家族が寝静まった頃、抜き足差し足で玄関を通る。
【例文2】子どもが起きないように抜き足差し足で歩く。
【例文3】抜き足差し足で深夜帰宅する。

抜き足差し足をテーマにした記事

「抜き足差し足」と池波正太郎

「抜き足差し足」とは文字通り、「音のしないようにそっと歩くこと」で、小説や落語では抜き足差し足忍び足と3つ並べて使われることもあります。「抜き足差し足」が一番多く登場するのは泥棒または忍者が歩く場面ですね。

泥棒の捕り物で有名な小説といえば、池波正太郎の「鬼平犯科帳」です。鬼平にはモデルとなった人物が実際にいます。江戸時代に江戸の町で火付盗賊改方長官だった長谷川平蔵です。任期は1787年(天明7年)から1795年(寛政7年)までの8年間です。1783年(天明3年)の浅間山大噴火や大飢饉による農作物の不作でインフレが起こり、世情不穏の時でありました。田沼意次の失脚(1786年(天明6年))を受け翌年に松平定信が老中に就任し寛政の改革が始まりましたが、経済不安から犯罪も増加していました。

平蔵が就任したのはそんな時代でした。彼は盗賊や放火犯を捕まえるばかりではありません。放火犯は当時から重罪でしたから死罪、流刑が適用されましたが、軽微な盗みは留置期限が過ぎると社会に出てきてまた盗みを繰り返すなど再犯率がものすごく高い犯罪でした。そんな刑期を終えた罪人を集め職業訓練施設を作り、大工仕事、建具職人、仕立物などの技術を覚えさせ職人として社会復帰させる仕組みを作り上げました。更生施設ですね。「抜き足差し足」で入ってきた囚人が、大手を振って職人としての一歩を力強く踏み出していく。その手助けまでしたのが長谷川平蔵でした。池波正太郎はそんな彼にほれ込み作品に仕上げたのです。